「三国機密」ってタイトルでいいと思うんだけど。
後漢末期、群雄が割拠する中、曹操(そうそう)が皇帝・劉協(りゅうきょう)を傀儡にして勢力を伸ばしていた。
遠く都を離れた司馬(しば)家に預けられ育った劉平(りゅうへい)は、突然迎えに来た父に連れられ都に向かう。
その道中、思わぬ秘密を知らされ驚く劉平。
劉平は皇帝の双子の弟だったのだ。
しかし、劉平が都に着いた時には、病弱な皇帝はすでに亡くなっていた。
亡き兄の遺志を継いで皇帝に成り代わった劉平は、皇后の伏寿と幼なじみの司馬懿(しばい)と共に漢王朝を再興するために曹操との戦いに挑む!
原題:三国机密之潜龙在渊 2018年
感想
タイトル長すぎ。「三国機密」でええやん。
馬天宇が献帝をやると聞いて、あの線の細い子には確かに似合うと思ったんですが、しょっぱなから「楊平」という名前で出てくるし、アクション(矢だけど)から始まるのでびっくり。
実は献帝は双子ちゃんで途中で入れ替わった、というトンデモ設定です。
諸葛亮も、関羽も名前だけ。周瑜なんて名前も出ない。官渡はがっつりやって、史実にはなさそうな戦いもがっつりやるのに、赤壁は口だけ。五丈原まで行かない。そんな、三国志です。
三国志のネタを知ってる人には、いろいろ小ネタが散りばめられてて、あれをこう使うかーと、楽しめるけれど、ちょいとハイコンテキストであるかもしれないのは認める。
真面目に作ってる「軍師連盟」がところどころにギャグをぶち込んでくるのに対して、本作はそもそもがギャグなのに全部真面目な顔をしてやる。
でも、葡萄のシーンはギャグだよね。曹丕(Cao Pi)が葡萄(pu tao)の皮(pi)を剥かずに口に入れたところが、早口言葉の「吃葡萄不吐葡萄皮儿 不吃葡萄倒吐葡萄皮儿」(葡萄を食べてブドウの皮を吐き出さない、葡萄を食べないのに葡萄の皮を吐き出す)の前半になってておかしかった。あれは、主語を曹丕にするべきなんだな。丕儿(ピーちゃん)ってママに呼ばれてたし。
超端的にこの辺りをやりますと。
霊帝には二人の息子がいて、兄の劉弁、弟の劉協。霊帝没後に弁が即位するけれど(少帝)、董卓の長安遷都前に毒殺。ついで即位するのが漢の最後の皇帝の劉協。弁には弘農懐王という諡が与えられ、「皇帝」としては扱われない。
本作に出てくる「唐王妃」とは、この劉弁の妻「唐姫」。皇后として冊封されていなかったっぽい。いずれにせよ、本作のオープニングのときには劉弁は死んでいます。だから、唐さんは廟に住んでいるんだな。
本作で死んじゃって、劉平(楊平)と入れかわる劉協は、後漢最後の皇帝の献帝。この人が曹丕に譲位して後漢が終わり、帝国としての魏が成立します。それに先立って、曹丕が劉協を殺したというデマが流れて劉備が即位して皇帝を擁する蜀漢の成立。その後、孫権も即位して、三人の皇帝がいる時代になる。
司馬懿ですが、司馬懿本人は曹操を嫌って仕官を逃げ回り、息子の曹丕の時代に活躍する人物です。「死せる孔明(諸葛亮)、生ける仲達(司馬懿)を走らす」になるけれども、堂々たる三国時代の名参謀の一人です。曹丕没後は曹叡も短命に終わり、端折りまくると司馬懿の孫の司馬炎が曹操の孫の曹奐から禅譲されて即位し、その晋によって、呉も滅ぼされて中国は再統一されて、三国時代は終わります。
言ってみれば、三国演義って、主人公を劉備や諸葛亮に持ってきがちですが。史実では曹操没後は司馬懿の一人勝ちなんだよね。(その間かなり自由にやってる孫権。)
統一してもすぐに司馬氏の晋もぐっちゃぐちゃになって、南北朝時代に突入するので、「三国時代」とは言わずに、黄巾の乱から隋による統一までの400年間を「魏晋南北朝時代」と称することもあります。そっちの方が正しいのかなーって思わなくもない。その、ごくごく初期を扱ってるのね。
BL。しかも、男が受け受けしい。女は攻め攻めしい。
ほぼ、無駄なくらい男女のベッドシーンがあるんですよ。中国ドラマなのでぶっちゅー、くらいのものなんですけれども、郭嘉だから仕方ないんだけど。
なのに!!!本作は怪作三国志というよりも、BL。BLを隠すためにあれだけベッドシーンが必要だったのかと思わなくもない。
献帝と司馬懿、そして史実で司馬懿がずっと支えた曹丕をこう使ってくるかーとその発想に脱帽しますよ。
修学旅行の一団にしか見えないけど、そういう年齢の設定です。
いやさ、普通献帝でBLって思いつかないよ。献帝と、司馬懿と、曹丕の三角関係ですよ。闇落ち戦闘美少女曹丕ちゃんですよ??(実際に、卞夫人に「丕儿」って呼ばれるし)
曹操と夏侯惇(出てこない)のBLもわかるし、曹操と郭嘉の佳人薄命BL(これはやってた。曹操が受け)もわかるし。なぜか比較的地味な満寵が郭嘉を愛しちゃってるのもいいや、郭嘉だから。でも荀彧があんなに簡単に説得しやすくていいんでしょうか。荀彧と曹操もBLだったんだろうし、その荀彧を死に追いやる曹操・・・。よすぎる。
でも、本作の主人公は献帝。曹丕と司馬懿のBLならわかるんだけど、献帝だよ?献帝が愛する曹丕に禅譲して曹丕の後宮できゃぴきゃぴ暮らしました、じゃなくて、司馬懿ですよ。曹丕はちゃんと即位するけれど、闇落ち戦闘美少女曹丕ちゃんですよ??
しかも、男は!全員!受け!
「琅琊榜」には、BLを隠すための郡主がいたけれど、本作もあの構図です。ただ、みんな人妻。みんな郡主どころではない攻めっぷり(つまり実に能動的な人たち)です。双子入れ替え作戦を主導する伏皇后はかっこいい攻めだし。唐王妃も攻めだったし。
曹節(曹皇后)はいじらしくも、やっぱり能動的に劉平を守った。最終話の兄妹の玉璽ドッジボール(兄貴の方が小柄)は大笑いだったけれど、史実では夫の献帝が兄の曹丕に禅譲したときに、曹皇后は玉璽を使者に投げつけた話は残ってるので、まんざら変な演出でもないです。(あの玉璽は結構皇后に床に叩きつけられるなどしてきた玉璽です)
無駄に色気をふりまいていた貂蝉(いるんですよ!!!)も、呂布の娘救出作戦で、再会した呂布の娘と殴り合って再会を喜ぶし、結局貂蝉も武の人設定だった。(呂布の娘はその後どうなったか不明)。
甄氏もまたゆきずりの男・曹丕ちゃん(まだ剣の達人ではない)に一目惚れして、曹丕ちゃんと駆け落ちしようとしたり、そして誰にも愛されない曹丕ちゃんが最後に頼ろうとしたけれど突き放し、やっぱり能動的だった。史実では甄氏は曹丕の寵愛を失って、恨み言を言って殺されます。それを予期させるような二人の終わり方。
女は!全員!攻め!
それだけ聞いたら頭が痛くなってくるんだけど、面白いの。ちゃーんと面白いの。
皇帝ったら、仲達(司馬懿)に会いたいって泣くし。仲達がいるから大丈夫って根拠のない万能感(でも仲達、なんとかしてくれる)。
司馬懿も楊平はなぜ死んだのか!え!皇帝になってるし!激おこ!から駆け落ち(未遂)したり。どうみてもBL。
夜に司馬懿と皇帝がお手手繋いで走り回ってモブキャラに「なんだ?男と男か?」ってセリフを言わせたり。郭嘉ちゃんに「(司馬懿と)陛下とは断袖の仲では?」と鎌をかけられたり。
断袖、というのは漢(前漢)の哀帝が、寵愛する美少年・董賢との昼寝から目覚めた時、帝の袖を下に敷いて眠っている董賢を起こさないように、袖を絶って起きたってことで、同性愛を意味する言葉です。
うん。狙ってBLをやってます。というよりも、(中国の検閲の中では)実に露骨にBLドラマをやってます。
皇帝の仲達がいれば、の全能感には、伏皇后じゃなくても呆れ果てる。
仲達だって皇帝のためなら火の中水の中。というよりも、かなりあっさりとみんな皇帝の秘密を知って、秘密を知ると死亡フラグが立つんですがね。
死を呼ぶ皇帝(結構有能な医者)。(首から血がぶっしゅーして痙攣してる曹丕ちゃんを救えたんだから、同じく首から血がぶっしゅーの唐王妃も救えよ)
曹丕!曹丕!曹丕!
本作が成立する最大の要因は曹丕(受け受けしい上に、中の人が曹丕に不必要なくらいかわいい)。本作の主人公は献帝、副主人公は司馬懿なんですが。でも、暮れゆく後漢の献帝、登りゆく曹丕(しかし闇落ち)が非常に対照的に描かれて、その二人を繋ぐ司馬懿なんですね。
劉平という人の出した結論=争いに巻き込まれて死ぬ庶民を守りたい。その目的のための手段になってやる司馬懿は、ぽっかりと心に大きな穴の開いた曹丕をさらに手段にしてしまう。
少し話をずらすと、そういう、「あるべき政治とは」を展開していく話は、表現の自由のない現代中国では古装劇の形をとらないと規制されるんですよ。製作者の「コア」は実はそっちにあるのかな、と思うこともあります。その典型例が「琅琊榜」でした。
話を曹丕に戻すと。曹丕は常々司馬懿にかなり熱〜い言葉をかけていくんですが(しかも司馬懿が曹三きょうだいを殺そうと計画してるときにもやる。誘い受けの強い心!!!)、一番は魏王になった後に反乱が起きてその背後に司馬懿がいるのではないかと疑ってるシーンですよ。「お前は誰につくのか」「勝者に」「孤が敗者になったときには、そなたも陪葬してやる」というところ、凄かったわ❤️。
曹丕は、皇帝に命を救われるし、皇帝を敬愛しているけれど、どれだけ曹丕が苦心しても、司馬懿も(密かに曹丕が思いを寄せる)伏皇后も曹丕を殺そうとして、皇帝一人が「曹操とはうまくいかないが、息子の世代になれば変わるのではないか」とという、結構辛い関係で始まるんですね。しかも、愛する伏皇后は自分への殺意を隠さない。これがこじれていく。皇帝に「お前の帝国も、お前の妻も、お前の謀臣もうばってやる〜」だし。
なので、司馬懿→献帝←曹丕 パターンの献帝総受けの三角関係かと思ったら、この曹丕がどんどん闇落ちするで笑っちゃった。曹丕×司馬懿×献帝 パターン。
多分、曹丕は司馬懿も皇帝も好きじゃないかな。ひょっとすると献帝を得られないから伏皇后に片思いして(多分そのせいで伏皇后にキモがられて殺意を抱かれる)、司馬懿を得ることで皇帝を得たつもりになろうとしたのか。
ああ、もう、好きすぎる。曹丕が。
私は三国志は正史派で呉のふざけた連中が好きで、真面目な魏の連中は堅苦しい上に、真面目かつ陰険な曹丕は私は好きじゃないのよ。
来るとは思わなかったわ、まさか曹丕❤️になる日が来るとは。しかも「曹丕ちゃん」と呼びたくなる。
ただ、できれば、もう一話増やして欲しかった。
曹丕のもとで(比較的)平和な世の中で、医者として伏寿と平和な生活を送る劉平と、狂い切ってしまうこともできず、苦しむ曹丕はとうとう曹植と甄氏の仲を疑い、甄氏を殺さないとならなくなる、とかさ。そして苦しみながら死んでいく曹丕もやってほしいじゃないの。中の人はきっちりと演じてくれそうだし。
(そして、その頃、呉の連中はというと。孫権がロバの首に「諸葛瑾」と書いた名札を下げさせて、顔の長い諸葛瑾本人が「ありがとうございます!私の名前が書かれているから、このロバは私のロバだ!」ってにこにこと切り返すなんてことをやってる。これ、正史にある話。自由なんだよ。魏ではまだ曹丕が生きてた頃の呉の連中って。曹丕は、自分よりも少し年長で「長」としてのキャリアの長い孫権に好きに振り回されるイメージを持ってる。呉は呉で孫権の晩年=ボケ老人から悲劇が始まります。)
武侠ドラマ
曹丕を中心にしてみると、典型的な武侠ドラマなんですね。
構造としては、今回はBLドラマだから、中国の武侠ドラマ名物の美人悪女(毎回凄まじい美人女優さんが吹っ切れた悪女ぶりを見せつけてくれる)の役を、「曹丕」というキャラクターに振ったわけ。だから、美女美男子・檀健次が演じる。しかも、登場段階の10代前半っぽさから、最終話の成熟し始めた男性の顔までやってのける。(実際には、本作の脚本は、「軍師連盟」の脚本も書いた脚本家が担当していて、この人が檀健次を指名したという話。わかってらっしゃる。)
しかも、武侠ドラマっぽく、曹丕が剣の達人の弟子入りするし。よりによっても、曹丕が、だよ!
表のヒロインが劉平ならば、裏のヒロインが曹丕だけど、好きな男(司馬懿)を得られなくて逆恨みして、ってあれか。「ときめき旋風ガール」か。
典型的な武侠ドラマのパターンの一つには、勧善懲悪の後に主人公カップルが手に手を取って去っていくものがある。勝手に楊過小龍女エンドと名付けてるパターンだけど。このアレンジで、貴種が救ってその後にすべてを投げて去っていく作品もあって、典型例が「琅琊榜2」。
本作は、皇帝だった劉平が帝位を曹丕に押しつけ与え、平民として(多分伏寿と)幸せにやってるのに対して、悪役とも言える曹丕は帝位に昇りながらも誰にも愛されずに死んでいくので、その構文も踏んでるんですよ。
檀健次
曹丕の中の人は、MIC男団の檀健次。
今回俳優の中では一番うまかったんじゃないかな。女優さんまで入れると、おそらく万茜もすごかったんだけど。
日本人は「だん けんじ」って読みたくなるけれど、「タン・ジェンツー」。れっきとした中国男子です。本名かどうかは知らないけれど。MIC男団って、何かやってる人たちがいるのは知ってたけど、そっか、MIC男団も10年やってるんだった。こんな美少年がいるとは、私のアンテナも鈍ってたのか。(でも、美少年でもキノコやってりゃ、みんなスルーしてしまうぞ)
で、この健次くん、顔のわりにかなり太い声が当てられてるなあと思ったんだけど、ご本人の声です。
キレッキレに踊れるだけあって、本作でもアクションシーン(無駄にある)もかなりのもの。もちろんスタントも使うだろうし、撮り方・編集の仕方はありますけれども、ビハインドショットをみると結構本人がアクションをこなしたみたいです。運動神経いいわ・・・。
剣舞シーンも多分全部撮影してあるだろうから、MVで出さないかね?
で、多分これは中国向けではなく、MICの台湾向けではないかと思うけど、健次くん・・・。もともとそういう売り方されてたのか。そっか。MIC・・・健次の売り方を間違えてると思う。
「閨蜜」というのは、めっちゃ仲のいい女の子と女の子の友達のことです。幼なじみ・親友、とかそんな感じ。それを男の子と男の子でLadybroって。。
いずれにせよ、おっさんに興味がないので、パスするつもりだった「軍師連盟」に行こう。健次くんの司馬昭が見たい。ただ、司馬昭(魏の皇帝を傀儡として操る人)だし、どうもまた闇落ち美少女。
なんかこの1月2月から健次くんの、「モフれる愛」「愛される花」と(そんなに興味のないジャンルの)の日本公開&配信開始だったんですか、そうですか、当分健次くんで楽しめそうです。
最近の若手の中国人俳優の中ではかなり小柄で(日本に来るとジャニーズの中に放り込んでもあまり違和感ない身長だと思う)、今の時代に主演を張るのは厳しいかもしれない。今回も妹役の女優さんと並ぶシーンがかなり多かったけれど、そのときに体格がほぼ同じだったからなあ。
でも、于正で二本あるので楽しみ。彼は「于正印の美男子」でしばらくいけるかも。于正ものは、「月下の恋歌」の張暁や、「延禧攻略」の許凱のように、要所要所に無駄なくらいの美男(しかも芸達者)をキャスティングすることに、私の中で定評がある。京劇の方は、健次の役は悪役でも闇落ちでもなく、ただただいい人(の悲劇)だった。そしてもう一つの方こと、骊歌行も難産だったけどようやく公開。こっちはいい子(の悲劇)だった。闇落ちして〜。
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