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武侠映画としての「楽園の瑕」「大英雄」

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王家衛作品の中で「わけのわからない」映画として名高いのが「楽園の瑕」。むしろ、「楽園の瑕」撮影中に早撮りで作られた「大英雄」の方が興行成績が良く、「楽園の瑕」一本では大赤字になるところを「大英雄」が救ったという笑うに笑えない二作だ。
個人的には妙に忘れられなかったのが「楽園の瑕」。終極版のブルーレイも買ったし、中古でオリジナルのDVDも買った。

「大英雄」は広東語版を買った。香港コメディの傑作だと思う。
何度も見てわかったのは、単独で「楽園の瑕」一本見たってわかるわけがないということだった。たくさん前提条件が必要な作品だった。

原作の「射雕英雄伝」・「神鵰剣俠」を読まないと。

「射雕英雄伝」が、郭靖と黄蓉夫婦の話。「神鵰剣俠」が、射雕英雄伝の微妙な悪人・楊康と、穆念慈の間に生まれた楊過と小龍女の話。

絶版の模様で、電子書籍にでもなればいいのだけど。神鵰剣俠は中古でもなかなか手に入りにくいようなので、図書館に入ってたら是非読んで。私は、「神鵰剣俠」の方が好きです。

原作を読む前に「レスリー・チャン 神鳥英雄伝」「楽園の瑕」「大英雄」を見ると、登場人物のうち四人を脳内でレスリー・チャンにできるのでおすすめである。(楊康(完顔康)・楊過父子、黄薬師、欧陽鋒)

雪の一夜が義兄弟の運命を変えた。一人はモンゴルの大草原で戦場の勇者に、もう一人は金国の王室で貴族として育てられるが……。

ついに巡り合った運命の義兄弟、郭靖と楊康。しかし楊康の義父・金国の趙王こそが彼らの仇敵であると知り、二人は心を分かち合えぬまま、国家統一の野望の渦に巻き込まれていく。

東海の孤島・桃花島にたどり着いた郭靖と黄蓉。しかし二人の前に、黄蓉を執拗に追う欧陽克と、その叔父・「西毒」こと欧陽鋒が立ちふさがる。さらに「東邪」黄薬師、「北乞」洪七公らも絡んだ、熾烈にして奇想天外な闘いの行方は如何に……!?

射雕英雄伝〈4〉雲南大理の帝王

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金国が起死回生を賭けて狙う伝説の書。南宋の悲運の名将・岳飛がそこに記したものとは何か? また重い内傷を負った黄蓉の命を救うべく、郭靖は桃源郷に隠棲する雲南大理国の皇帝のもとへ赴くが、そこで意外な事実が!?

桃花島に戻った郭靖と黄蓉が目にした驚くべき光景。武林の恩怨愛憎をめぐる陰謀は、ついに二人を巻き込み別れの時が……。そしてジンギスカーンの西方大遠征に従い、舞台は蒙古からサマルカンドへ。国家統一をかけた熾烈な戦いが始まった!

売国奴の息子」という過酷な運命を背負った少年・楊過の頑な心を開いたのは、武芸の師となった美しい年上のひと・小龍女だった……。

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中原制覇の野望をあらわにするモンゴルの王子クドゥ。迎え撃つ楊過を苦しめる、父の死の真相。そして、武林の掟を破る、師匠・小龍女との禁じられた愛の行方は・・・・?!

――十六年後。
襄陽城で成長した郭襄は、イヌワシを従えた侠客として江湖で名高い「神チョウ大侠」の正体をつきとめるべく、旅に出る。しかしその背後には、金輪法王の黒い影があった……。

脳内がおかしなことになったけど

「楽園の瑕」「大英雄」「レスリー・チャン 神鳥英雄伝」のおかげで脳内キャストがどうなったかというと、
楊康:若いレスリー(楊過は父にそっくりというし)
黄薬師:レスリー(大英雄)
欧陽鋒:レスリー(楽園の瑕)
洪七公:ジャッキー・チュン
一灯大師:レオン・カーフェイ
欧陽克:レスリー(息子ならいいじゃん?)
になってしまったのだ。レスリーだらけである。でも、女まで含めてレスリーなら一人何役もこなせただろうから、レスリー・一人芝居もありだったのではないかと思う。
そうすると、「大英雄」の九陰真経を巡る話もすとんとくるし、鳥の怪物が出てくるのも「神鵰剣俠」からなのがわかる。トニーの蝦蟇功も。(「神鳥英雄伝」でげこげこぴょんぴょんやるレスリーはかわいいよ)
ただ、欧陽鋒は蛇使いなのだが、レスリーもトニーも蛇は使わなかったな・・・
そんなことを思いながら、飲食を忘れて一気に読んだのだ。

読んでからの「楽園の瑕」との関係

クレジットされている原作は「射雕英雄伝」だが、むしろ「神鵰剣俠」の方にいろいろと近い。
「楽園の瑕」の素直ではない欧陽鋒は、少しひねくれたところのある楊過っぽい。欧陽鋒の兄嫁に恋する黄薬師だが、「桃花」や慕容燕/媛にちょっかいを出さずにはいられない。本命の小龍女一筋のくせに女の子には親切だしからかわずにはいられない楊過ではないか。
「射雕英雄伝」で欧陽鋒は兄嫁と関係して不義の子欧陽克がいる。その兄嫁を演じるのはマギー・チャンだ。素直になれなかった兄嫁は、本当は大好きなのに楊過をいじめてしまう郭芙のようだ。
手を取り合って江湖を渡っていく洪七夫妻は「神鵰剣俠」のラストの楊過・小龍女夫妻そっくりだ。
黄薬師への愛に敗れた慕容燕/媛の姿は、「神鵰剣俠」で楊過に失恋した女の子たちに重なる。
いないのは盲目の剣士と貧しい女だが、命をかけて女のために仇を討ってやろうとする盲目の剣士の姿は、片腕で世を渡る楊過のようだ、というのは障害者にこじつけすぎだろうか。

原作を読んで人間関係を把握してからこの二作を見るといろいろ見える。
まずは、「楽園の瑕」の企画段階でのキャストは「大英雄」の通りだったのだろう。つまり、東西南北は
・東邪 黄薬師:レスリー・チャン
・西毒 欧陽鋒:トニー・レオン
・南帝 段智興:レオン・カーフェイ
・北丐 洪七公:ジャッキー・チュン
原作では黄薬師はおしゃれでクールな人。レスリーが似合う。「楽園の瑕」では黄薬師が女をたらしの設定になっている。実際にプレイボーイだったかは別として、プレイボーイ役をさせればレスリーは徹底的にハマる。兄嫁との道ならぬ恋に苦しむ欧陽鋒にはむしろトニー。確かに元の設定は正しい。
ただ、欧陽鋒を狂言回しにした群像劇にするなら役を自分色に染めるトニーよりも、自分を役に染め上げるレスリーの方が適役だ。「苦しむトニー」ならば、別にキャラクターを作ろうだろうか。その代わりに南帝を削ってレオン・カーフェイを黄薬師に持ってくる。トニーとレスリーを入れ替えるだけでは済まなかったのは黄薬師という人は「背が高く、顔色が悪い」からだろう。レオン・カーフェイ本人じゃないの。それと、実際どうかは別としてもトニー・レオンにプレイボーイ役は似合わない。こうして成立したのが「楽園の瑕」なのだろう。
そのほか、「大英雄」で「チョウ」と呼ばれたカリーナが周伯通で、ケニー・ビーが王重陽だろうと気づいたり。「楽園の瑕」のブリジットの孤独な剣士は楊過を鍛える神鳥が仕えた「独孤求敗」だったとか。「楽園の瑕」で洪七の指が一本飛ぶが、理由は違えど9本指の洪七。

他に見ておくべき作品

「神鳥英雄伝」のレスリーはとっても可愛い。もう機転がきくけれど少しおぼこい楊過と、ノーブルだけど邪悪な楊康(少しだけ)の演じ分けがうまい。
そして92年「スウォーズマン 女神伝説の章」。いわゆる、「東方不敗」で通じる。
「ブリジット・リン=男装の麗人」となった作品らしい。
そして同じく92年「スウォーズマン 女神復活の章」。続編はは見なくてもいい。「楽園の瑕」の撮影風景としてジョイ・ウォンが男装している写真があるが、この「女神復活の章」でジョイ・ウォンが偽の東方不敗として男装しているので、その確認だけでいいと思う。
ブリジットとレスリーの93年の「キラーウルフ 白髪魔女伝」「白髪魔女伝2」も見ておいても楽しい。

「楽園の瑕」は武侠映画なのか

これらを見てからもう一度「楽園の瑕」を見てみる。武侠映画の文脈から本作を見ればなんと写実的で人間的、そして現代的な登場人物なのだろうと思う。誰も空を飛ばず、「終極版」で削られたオープニングのレスリー(指をぱちんとやる技は西毒・欧陽鋒ではなく、東邪・黄薬師のものだけど)以外、珍妙珍奇な技は使わない。なぜ、終極版で削られたかって、そういうことだろう。
誰かを愛し、愛されたいのに、拒絶さえるのが怖くて自分から拒絶してしまう。
孤独が嫌なのに、孤独でなければ生きていけない。
そんな欧陽鋒なんて、普通の武侠映画の中では主人公たり得ない。
ブリジットは「男装の麗人」を本作でも演じる。しかし先立つ「東方不敗」・「白髪魔女」との違いは大きい。野心的な「東方不敗」、そして、誤解から生じた愛する人への恨みから「魔女」になる「白髪魔女」。それに対して本作では愛を求め、愛に敗れた結果、一人剣の道に入って行く男装の麗人。やはり、普通の武侠映画の登場人物たり得ない。
本作が香港で受け入れられず、海外で評価されたのはここが理由だ。武侠映画ではない。時代劇の形式をとった現代劇だ。そうだ。60年代と北宋末期と何が違うのだろう。60年代も「過去」であることは同じだ。
物語が整理されているのは終極版。

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オリジナルは荒削りなのが魅力的。

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武侠映画としての「大英雄」

「大スターがハチャメチャなことをしているコメディ」なのだが、原作を読み、先立つ先品を見てからだと「大英雄」は「楽園の瑕」とは異なり真っ当な武侠映画であるとわかる。
空を飛び、摩訶不思議な技で相手を倒す。なぜかとある経典を得れば力を得ることができる、とか。わかりやすいキャラクターたちとか。
こうすると、むしろ「大英雄」の方が正統な武侠映画なのがわかると思う。だから、武侠映画全盛時代の香港で本作が受けたのだろう。
ハチャメチャなのだが原作の設定をきちんと生かしている。どうして欧陽鋒は殺されたい洪七を殺すことができなかったのか。そして、洪七は自然に攻撃防御をしてしまうのだが、欧陽鋒を(一人では)倒すことはできない。それは二人が西毒と北丐だから。

どうして薬師は妹弟子と流し目剣法をするのか。それは古墓派の奥義、楊過と小龍女の玉女素心剣法だから。本当に「大英雄」は正当な武侠映画なのだ。

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