グランドマスター

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その伝説の生涯が明らかに…。彼の知られざる実話をもとに、中国武術を受け継ぎ、その技と精神を磨き上げて次世代に継承していった各地の宗師(グランドマスター)たちの壮絶なる運命と頂上決戦を描いた。

原題:一代宗師 2013年

感想

美しい。映画館で見て本当に良かった。王家衛ならかけてくれるのか、地元シネコン。

アクションがスローモーションになるのだが、決してだれることもなく、ひたすら美しいのだ。
トニー・レオンとチャン・ツィイーの「柔能く剛を制す」な技。チャン・チェンの「剛は剛で制す」な技。素人でもこの違いが分かるほどである。まさに、見事。

オープニングの雨の中のトニーのアクションの水しぶき、ツィイーのトニーに「惚れた」アクション。奉天駅のツィイーの仇討ちアクションの絵づら。白バラ理髪店のチャン・チェンの凄み。そして、死にゆくツィイーの思い出の中の粉雪の中の演武。一瞬一瞬がため息がでるほど美しく、見逃せない。

何の物語かわからない?

ウォン・カーワイの物語には苦手意識があったのだが、それは私がストーリーテリング至上主義だから。

確かに私には本作もまたストーリー不足ではある。ただ、物語は「30年代から50年代を中国で過ごし、香港に逃れた人の物語」なのだ。宮が「表地になる者もいれば裏地になる者もいる。全ては時勢」と言っていたが、そこに本作の主題があると思った。武術を切り口に時代に翻弄された人々を物語った。

言語

トニーはずっと広東語を喋る。ツィイーは北京語。チャン・チェンも北京語だったと思う。ソン・ヘギョは広東語の吹き替え。

トニーの役は広東省の男だからそれでいいし、ツィイーは東北の女だからそれもそれでいい。チャン・チェンの北京語も国民党だからそれでいい。さすがに台湾なまりではなかったと思うが。日本軍の憲兵は日本語を喋る。それぞれが自分の母語を喋っていて、それがその役の母語にもなっているから言語面で自然だった。ただ、お互いに自分の母語だけを喋っているが通じるのだろうか。特に会話が少なくなかったトニー・レオンとチャン・ツィイーだ。

最近では、香港映画でも中国の資本が入るせいか、北京語版を多く見てきた。DVDなのだから、サントラをもう一つ儲けて広東語も乗せてくれよ、と思うことが度々あった。やはり、現実に会話が成立するのか謎なのだが、言語面では自然に近い版だったのがうれしい。

キャスト

トニー・レオン

映画館で見たのはおそらく「傷だらけの男たち」以来ではないだろうか。40代からの約20年間を描くのだが、ずっと同じメイクだったのが不自然。アクションができる印象はないのだが、案外アクション映画がある人だ。本作でどこまでダブルボディだったのかは分からないのだが、静かなたたずまいの中にぴりっとした緊張感が漂っていて、非常に良かった。

チャン・ツィイー

宛がきだったのではないだろうか。本作の最大の功労者はこの人。

実はこの人が嫌いだ。いや、それを隠したことはない。何が嫌というと、ぶりっ子ぽいのだ。女ならわかるだろう。野心を隠そうともせず、そのかわり気っ風もよさそうなファン・ビンビンや、さばさばタイプに見えるヴィッキー・チャオが同性受けが良さそうなのに対し、チャン・ツィイーは「清純派」を売りにしていて男受けが絶大に良いのだが、目を見ればその野心が分かる、というタイプ。カマトトぶるとはまるジョウ・シュンと同じく、女に嫌われる女だ。「HERO」ではまさにトニー・レオンに横恋慕する召使いを演じた、ああいうイメージが強すぎる。欲しいものは全て手に入れてやる、といった野心のある卑しい女や、「エンペラー」の女帝のように男を操ろうとするいわゆる悪い女を演じれば「はまり役だね」と言ってあげるけど。その卑しさだったり、野心を生き生きと表現するのがその目だ。

本作ではその目力を封印している。長いまつげは少し房になっていておそらくまつげエクステだな、と思ったのだが、登場したときには、目に光がなく、表情もない。いわば能面のような顔をしている。それでも、迫力があるのはさすがだ。この能面は武闘家としてのスイッチが切れた状態で、戦い始めると一気にきらきらと生気を取り戻す。故郷で「私こそ天意!」と、ほほと唇をわなわなと振るわせ、老人たちに向かって怒りを爆発させるシーンでこそ、ツィイーらしさが生きてくる。お見事。

トニー・レオンが約20年間(実質15年程度か?)の年月を感じさせないメイクだったのに対して、ツィイーのメイクは年齢を感じさせる。

登場当初の1930年代では長い髪の毛は弁髪のように結っている。そして肌は20歳の娘役だからか一切しみがない。肌理細かく作ってあってきれいだ。しかし、さすがに40前の女には20歳の娘の肌のハリや内側からにじみ出るような若さの輝きというものは出せなかったが。30代後半から40歳にかけての役ではほぼノーメイクのようにすら見えた。まつげにはずっとエクステをしていたようだが、今度はうっすらとシミが見える。死に顔ではつるんとした肌ではなく、微かなぼこぼこ(それでも非常に美しい)まで見せた。そして私は思うのだ。こう美しく年を取りたいものだと。ちっ。ジョウ・シュンのみならず、チャン・ツィイーまで許してしまうとは。やはり、良い女優だ。(トン・ヤオにもそう思う日が来るのだろうか?)

チャン・チェン

チョイ役、というか、トニー・レオンに絡むことはなかった。このカミソリはどうして主人公に絡まないのに出したのだろうか。それは、香港で伝えられた技(詠春拳と八極拳)、香港で伝えられなかった技(八卦掌)を対比するためだろう。もしも、ツィイーの死で終われば、詠春拳しか香港に伝わらなかったように見えてしまう。実際には、様々な流派があって(葉問は最後に「流派?どうでもいいじゃん?」と言っているが)、様々な技があり、若梅がいうように「中国武術1000年の歴史の中では伝わった流派もあれば、伝わらなかった流派もあり、伝わった流派の中でも残らなかった技もある」。これを表現するためのカミソリというキャラクターだったのだろう。

それにしても、白バラ理髪店のところは笑った。場所代を取り立てにきたヤクザがぶるぶる震えていて、金を払うチャン・チェンが金を払いつつも凄まじい悪人面でぼっこぼこにするのだ。「体の一部で払ってやろう。何が良いか?」と自分の目にナイフを突き立てようとする、とか。反対だろう?で、ヤクザは震えていたくせになついて弟子にしてくれろ、と拝み倒すし。なんなんだ。あそこで腐フィルターが発動しなくてどこで発動する?といったところだ。一人で笑った笑った。

楽園の瑕」と「大英雄」のような関係のコメディ「白バラ理髪店」ってやらないかなあと期待している。きっと大量にチャン・チェンのシーンのフィルムがあるはず。「大英雄」のようにほぼ同じキャストに別の役を振るのではなく、未公開シーンをつないで「白バラ理髪店」ってできるのではないかと思うのだが。ツィイーへのストーカーチックな愛でもいいか。

ソン・ヘギョ

韓国の女優さんだ。葉問夫人を演じた。台詞があまりないので吹き替えでも違和感がない。
もう一度この人を別の作品で見て、思い出せるか、と言われると自信はないのだが、ナチュラルな美しさだった。
特筆すべきは、コートを作って写真を撮影するシーンだ。若梅が葉問を愛するようになったことまで気づいたかはわからない。しかし、愛を全て失ったとまではいわなくても、葉問のなかで、自分だけが占めていた場所をもはや独占できなくなった、相手はおそらく東北の女、と悟ったときの表情が良かった。

レスリー・チャンの影

馬三役の俳優が出たときに、柄の悪いレスリー・チャンだと思った。思えば、ウォン・カーワイはレスリーを多用した監督だった。存命だったら本当にレスリーに振ったのではないかな、と思った。

さあ、もう一度見に行こうか。できれば、香港公開版、中国公開版、ベルリン上映版と見たいものである。香港でブルーレイは買ったんだけど、インターナショナル版だったんだろうか、あれは。
難を付ければ「あといくら失えばナントカ」という日本語のキャッチだろうか。そう言う物語ではないのである。

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