狂舞派

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狂舞派 The Way We Dance 2013年

感想

監督はアダム・ウォン(黄修平)。

あらすじを書いたら、いつも以上に盛大にネタバレしていた。仕方があるまい。レビューを先に書こう。

9月15日に福岡国際映画祭で見てきた。まだ香港では上映中のほやほやだ。しかも、大ヒット中。字幕は下に中国語字幕に英語字幕、そして縦の日本語字幕というものであった。
15日にあらすじを書き、16日にレビューを書いている。アップ予定は17日だ。「感動した」という言葉は使わない。けれど、16日現在、深いところでまだ揺さぶられている。

「踊るぜ、香港!」というタイトルがつけられていたが、土壇場で原作通り「狂舞派」になった。これは良い判断だった。「踊るぜ、香港!」だったら見に行かなかったと思う。

香港映画は終わったと思っていた。日本に来るものの多くがジョニー・トー系のアクションやノワール、そうでなかったら大陸との合作だ。香港ベースに生きてきたスタッフとキャスト、大陸のスタジオと金で作った映画は純粋に香港映画と言えるだろうか。金が出るということは口も出すということだから。だから、「香港映画」ではなく、香港の血を引いた中国映画、香港映画と日本映画の気配が濃厚に漂う台湾映画に期待していた。その中で一人気を吐くパン・ホーチョン、というイメージだった。本作のアダム・ウォンにも期待したい。

本作の魅力は王道香港映画の「青春武術物語」と見せて、実はそうではないところだ。

香港王道青春武術物語とは

私の考える香港王道青春武術物語とは、「①超人的な能力を持つ主人公が、仲間とともに、②何か出場し、③強大な力を持つ相手に武術を利用して、勝つ」「ギャグとワイヤーアクションの」物語だ。典型例はもっと有名どころならチャウ・シンチーの「少林サッカー」に「カンフーハッスル」だ。ジェイ・チョウの「カンフーダンク」(中国・台湾との合作)、どれもギャグ映画だし、ワイヤーアクション満載である。

ワイヤーアクションにも過剰なギャグにも頼らない

本作は「①超人的なバランス感覚を持つ主人公花が、リャンやデイヴと共に太極拳を活用しながら、②ダンス・コンテストに出場し、③強大なルーフ・トッパーズに挑む」物語と見ることができる。(③をそのように読んでは読解ミスである。このことについては後に述べる)

もちろん、コメディなので、どっかんどっかん笑うことのできる作品である。けれど、チャウ・シンチーのように過剰なほどのギャグのサービスはない。笑いという部分はかなり文化的な差があると思う。(だから、日本ではシンチー映画は「少林サッカー」のおかげで少しは日本でも受けるのだが、汚いし、不潔な印象を持たれてしまう。アメリカ映画の性的な部分を強調するようなギャグコメディを安心して初めから最後まで腹を抱えて笑える日本人が何人いるだろうか?)本作はコメディだけどギャグ映画ではないので、文化的な笑いの違いはあまりない。

何にも頼らない。素材だけで勝負、という潔さ

武術を外して考えると、香港にも青春物語はある。だが、いずれもネームバリューのある人の製作や出演だ。ジェイの本格デビュー作「頭文字D」は有名な原作がある。製作・キャスティングでも「喜劇王」はチャウ・シンチー(セシリア・チャンは本作で名を売ったようだ)。「頭文字D」は「インファナル・アフェア」シリーズの監督・脚本トリオが、「インファナル・アフェア」シリーズから脇役(アンソニー・ウォン、チャップマン・トー、エディソン・チャン、ショーン・ユー)を残して、当時映像作品にはほとんど参加したことのない台湾のスター、ジェイ・チョウを起用した。「ツインズ・エフェクト」はエディソン・チャンとツインズのシャーリーンとジリアン。「ジェイ・チョウを探して」はショーン・ユーとカメオ出演のジェイ・チョウ。ダニエル・ウーも阿牛ですらネームバリューのある人たちだ。「カンフー少女」はセシリア・チャン出演で監督は王晶。B級青春ものの匂いがぷんぷんするパン・ホーチョンの「AV」だって、主演俳優はアイドルドュオ「シャイン」のウォン・ユーナンとチョイ・ティンヤウ。「イザベラ」を青春映画と捉えられないわけでもないがイザベラ・リョンがデビュー間もないだけで、狂言回しはチャップマン・トー。

本作は作品数の多くない監督が、無名のキャストばかりを使って作ったのだ。無名なのでストーリーと演技と演出そのもので評価してくれ、という作品だ。それが新鮮だった。

こうしてみると、2000年前後からの香港青春物語がどれだけショーン・ユーとエディソン・チャン、セシリア・チャンとツインズの肩にかかっていたかがわかるだろう。私がアイドル映画ばかり見ているからかもしれないが、日本ではそれ以外ほとんど見られないのである。

勧善懲悪からの解放

上で「③強大な力を持つ相手に武術を利用して、勝つ」の部分を、本作「狂舞派」で「③強大なルーフ・トッパーズに挑む」と読んでは読解ミスと書いた。これについて書こう。
香港の「王道青春武術物語」は勧善懲悪ものだ。チャウ・シンチーものの「少林サッカー」と「カンフーハッスル」が典型だ。「カンフーダンク」も「カンフー少女」もそうだ。

本作の悪役はルーフ・トッパーズと思った。傲慢なこの人たちが妨害して、花は怪我をするのかもしれない、と。そうではない。ルーフ・トッパーズは花を立ち直らせるのだ。ストーミーは傲慢なのではない。負けず嫌いのデイヴとは立っている次元がまるで違った。事実を指摘しただけだった。本作のラストはダンス・コンテストだが、主人公花たちが勝ったか負けたか、それは問題ではなくなっている。まさに、タイトル通りの「The Way We Dance」なのである。

また、悪女レベッカだが、「悪女」を基礎づくったのは花本人。確かに、BombAはレベッカに引っ掻き回されたが、「四年前の阿里山の娘」と最後の「ロリータ阿里山の娘」でレベッカ側の視点があるからか、レベッカを憎めなかった。

レベッカもルーフ・トッパーズも、BombAも、みな踊らずにはいられない「狂舞派」なのだ。

一見「花より男子」型のラブコメに見えるが

一番手君が変人リョン、二番手君がデイヴで、主人公が初めに好きになるのは二番手君だが、二番手君には太刀打ちできないような恋人がいるが振られて、というのはまさに「花より男子」だ。一番手君が変な人なところ、一番手君が二番手君との仲を誤解して暴力を振るう(今回は相手の力を利用して身を守った程度だが)ところまで含めて。

藤堂静ポジションが悪女レベッカというのは、ある話だからそれは良い。特に二番手君デイヴがリアルな男の子だった。

まさかリョンがムショ帰りとは思わなかったが、二番手君のデイヴは決して王子様・花澤類ではない。常につくしを支える類とは異なり、デイヴはレベッカの色香に惑わされ、決して花を支えることはない。むしろデイヴは花やナイチャに支えられている。

少し洒落た映像

香港映画で洒落た映像といえば、ウォン・カーワイ監督作品、そしてリー・ピンビンもしくはクリストファー・ロイドにたまにアンドリュー・ラウ撮影作品だ。ただ、コメディ映画で綺麗だな、と思うことはまずない。
けれど、本作は変人リャンが言うように、「花は楽しそうに踊る。手の先まで笑っている」。それが表現できるほどには映像が洒落ている。

リアルな現代香港っ子の姿

衣装もヒップホップ系の子ってこんなだよね。少し前のロリータってこんなだったよね。という感じだったのが逆に新鮮。香港映画のひたすらださい衣装とか、台湾映画の芋っぽさもなく、私の目にはさほど日本と変わらないように見えた。確かに太極拳の方はもっさい中国式の服なのだが、黒い学生服っぽくもあった。ひょっとしたら学生服のルーツは中国なのかもしれない。なので、ちょっととうのたった応援団っぽくあった。そこも違和感がほとんどないかった。それもまた、リアリティがあり、説得力を持つ所以だ。

というわけで、本作は王道香港青春物語と見せて、全く違うのであった。等身大の香港を描いたと思う。ただ、そのシンプルさは香港映画というよりはむしろ台湾映画の得意とするところだ。台湾の金馬奨で気に入ってくれた協賛者を見つけた、とQ&Aでプロデューサーが言っていたが、それもそうだろうと思った。

他の作品からの引用

ただ、他の作品の引用めいたところはないわけではない。花のバランス感覚は豆腐屋の豆腐を運ぶ過程で身につけたものだし(「頭文字D」)、身体障害を持ったダンサーはもろに「グリー」。花が車いすになったところで、ああ、車いすで踊るのかと思ったが、違ったけれど。

「狂舞派」における障害

香港は平坦とお思いであろうか。シンガポールは確かに起伏がさほどないのだが、香港は非常に起伏の激しい土地である。特に、香港島側はそうだと思う。それでいて、香港は超長寿の場所でもある。階段だらけ、しかも、道は日本よりも遥かに悪い。クラブから帰るには階段をくだらなければならない。そんな中花は車いすでクラブに出かけている。
香港のクラブで本当に車いすが歓迎されるかは知らない。日本でどうかも知らない。けれど、入店を断られるかもしれないな、と感じている。そしてリャンなしでどうやって帰るのだろう。そう思ったら、クラブの従業員なのか、客なのか、屈強な男たちが数人がかりで車いすの花を下ろしてやって、「送ろうか?」とまで言っていた。

ああ、そうなんだ。香港は狭く、どこにでも人がいる。だから、困っていたら助けてくれるんだ。と思った。

また、下にも書くが、ストーミー役の方は本当に義足のダンサーだった。「弱点を生かすんだ」というマインド・ストームがお涙頂戴にならず、「踊らずにはいられない」人たちの生き様に焦点をあてたところが清々しい描き方だった。

キャスト

花を演じたチェリー・ガンはもろに優香である。色が浅黒いところまで。ただ、歯並びは出っ歯ではなく、八重歯。台湾ドラマの「敗犬女王」シェリル・ヤンも若い頃はがしゃがしゃの歯だったが、今はそうではないように矯正するのだろうか。日本のように八重歯が可愛い、という感覚は香港にもあるのだろうか。ダンスパフォーマンスは素晴らしい。そうそう、ラストで花がリャンを相手に足のトレーニングをするシーンで、寝そべった花が立てた足にリャンが体を預け、そのリャンの体重を負荷にして、というシーンがある。その続きはリャンの上にデイヴまで体を乗せる、とか何なんだ。他に二人も男が体を乗せるのだが、花が腐女子でなくて良かったとつくづく思う。

変人リャンを演じたベイビージョンは、なんだよ、アンジェラベイビー(Angelababy)かよ?と思ったし、リャンは確かに目の大きい綾野剛っぽい。が、生で見ると肌ももちもちで非常に健康的、かつ可愛いし、目が何度かあったがハートにズキュンであった。ショーン・ユーの後の若手俳優が少ないなあ、と思っていたが、期待しよう。でもデビューとヒット作が同じというのは苦労するだろう。乗り越えて欲しい。

デイヴを演じている俳優のロックマン(マンロックではない)はヴィック・チョウというよりは、むしろジェリー・イェン似である。正確にはジェリーと私の同級生を足して二で割った感じ。雨の中、半裸でダンスをする男の写真はこの人のもの。

レベッカ役の女優は微妙に安藤美姫似。レベッカよりはむしろ、レベッカでもナイチャでもないもう一人の女子メンバーがむっちり系セクシーだったと思うぞ。

ストーミー役のトミーは本当に義足なのだろうか。階段を下りるときも、片足を引きずるような動きだったのだが。監督も「トミーさんだけはオーディションではなく、脚本段階でこういう人を探していて、トミーさんを見つけて口説き落とした」と言っていたし。聞いていいのかわからなかったので聞けずじまいだった。しかし、wikiに「狂舞派舞者 Tommy “Guns”從不放棄」とあった。本当に義足のダンサーだった。

福岡国際映画祭でのQ&A

奥の二人の女性は通訳。撮影しても良かったのか良くわからない。みなさんが写真をお撮りになっていたので、私も便乗してみた。


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左から、トミー、プロデューサー、ベイビージョン、監督。トミーがぼけぼけなのが残念。トミーはなぜかどれもぼけぼけなのである。

フラッシュは焚かないし(そもそも遠すぎるし)、カメラもいいものではないから仕方あるまい。こうしてみると、ベイビージョンの髪型がわかるだろう。台湾男子もよくやるもみあげから一気に刈り上げている。やめようぜ。

Q1;構想は?キャスティングについて
監督;構想は4年。キャスティングはオーディション。Facebookで募集したらダンスの種類を限定しなかったのもあり、驚くほどたくさんの人、ボイパから太鼓に社交ダンスというちょっと外れてるけど、という人まで興味を持ってくれて、どうやるのか、と聞かれて、トミーさん以外はそこから選んだ。トミーさんは脚本の段階で誰かいないか探して見つけて口説き落とした。

Q2;ダンスも素晴らしいが、脚本も良かった。香港ではどうしているのか?(おそらく質問者は脚本家についてなど聞きたかったのではないかと思う。おそらくロスト・イン・トランスレーション。なお、本作の脚本は監督とプロデューサーのようだ。)
監督;香港理工大学にダンス部があって、そこにダンスのためだけに世界中からやってくる。そこから思いついた。当時は事務所もなく、夜の大学に入ったりね。そこから脚本を練っていった。

Q3;有名な人がいないし、テーマも普通のものとはことなるが
プロデューサー;みんなそれを聞く。四年かけて協賛してくれる人を募った。確かに香港で人気なのはオーソドックスなカンフーやアクションだが、テーマがテーマなのでみな尻込みしてしまう。しかし、内容を変えてしまっては本作は生きない。台湾の金馬奨で協賛してくれる人を見つけた。配給会社の社長が気に入ってくれてね。監督にいったんだよ。「難しければ難しいほどやりがいがある」って。理解してくれる協賛者が一人いればそれで十分。

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