ラストエンペラー

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1950年、太平洋戦争の終結と満州国の崩壊により、共産主義国家として誕生した中華人民共和国の都市ハルピン。ソ連での拘留を解かれた中国人戦犯でごった返す駅の中に、自殺を試みようとする男がいた…。彼こそは、清朝最後の皇帝、溥儀…。

The Last Emperor 1987年

感想

監督はベルナルド・ベルトルッチ。

カンヌで3Dでお披露目され、3Dディスクも出ているらしいが、当然のことながら対応した機器を持っていない。香港映画祭で3D上映ということだったので見てきた。

ツイ・ハークならにゅううううっと出させそうなのだが(「チャイニーズ・ゴースト・ストーリー」を3D処理しないかなー)、飛び出したり奥行きはあまりひどい処理ではなかった。クリアで溜息の出そうな紫禁城の様子だったのだが、デジタルリマスターをかけた、というところに意味があるのであって、3Dであることにはあまり意味はないのではないのかと思った。

3Dメガネは「自分の持ってきてね」ということだった。HKD20のデポジットを払い、めがねを借りた。この日はドミ泊まりでコンタクトを取り外すのに時間のかかる私はメガネだったので初めてメガネオンメガネであった。そういう不快さも気にならなくなるほど、面白かった。

舞台は中国なのに完全な英語作品である。

もしも「覇王別姫」が英語であったら。レスリー・チャンは吹き替えずに自分でしゃべることができただろう。作品もレスリーももう少し違った扱いを受けたかもしれない。

しかし、本作は中国語でされるべき西太后の発話も宦官も乳母も全て英語。皇后も貴妃も東方明珠も美人ぞろいではあるけれど、アジア好みの美人というよりも欧米好みの美人。まさにオリエンタリズムまるだしである。「ラスト・サムライ」と「ラスト・エンペラー」どちらがオリエンタリズムが強いだろうか。

「覇王別姫」が英語であったら。レスリーの名声は世界規模になったかもしれない。しかしレスリーは同時にオリエンタリズムにレイプされるわけで、あれはあれで良かったのだと、そんなことをぼうっと頭の片隅で考えながら見ていた。

なぜって、主演のジョン・ローンは「覇王別姫」でレスリーと蝶衣役を競った人だったから。レスリーで当て書きされた原作だったが、レスリーの起用までにすったもんだあって、一度はジョン・ローンに決まったのだけれど、最終的にレスリーで行くことになったという。
レスリー・チャンが程蝶衣を演じるのは運命 《覇王別姫》のたどった紆余曲折(下) その1

ふっとみると、ジョン・ローンの丸顔とレスリーの丸顔はなんとなく似ている。そしてその目。ジョン・ローンは知的で鋭い。実際の溥儀という人物がどうであれ、本作を通して感じたのは「そこそこ知的でそこそこ意識的でそこそこ意欲的であったにもかかわらず、情報を遮断されて育ってしまった男の悲劇」であった。中途半端に賢いことの罪深さを思い知らされる。後世から見れば、日本の力を持って清朝の復権などありえない。日本から帰国した後の溥儀なんて滑稽そのものだ。考えることなく、引き回される収容所所長に向かって「He is my teacher. He is a good teacher.」なんて言ってしまう。それは溥儀が中途半端に知的で中途半端に打算的だったからこその悲劇なのだ。偉大なる父祖と異なり、溥儀は中途半端だった。なぜなのか。幼少より紫禁城に閉じ込められていたから。溥儀にとって、全ては舞台でしかない。

レスリーの目は鋭くもなれるけれど基本的に柔和。計算しつくした人だけれど、その計算は天才的な嗅覚のようなものが前提にあってのもの。いわば、レスリーとは感性の人だ。仮にレスリーが溥儀を演じたならば、計算しようとして計算を間違えた男ではなく、考えることを放棄して感性に溺れた男として表現したかもしれない。全ては舞台。毎日紫禁城で演じられる舞台。それは悲劇なのか。操り人形でありたくなかった溥儀の悲劇が成立しなくなってしまう。

感性の蝶衣はジョン・ローンでは成立しない。舞台と現実の差がつかなくなった蝶衣は理性の人ではない。結局「ラスト・エンペラー」も「覇王別姫」もあるべくしてあった。

最近清朝宮廷もののドラマにはまっている。辮髪の王子さまもいけるんだと知った「ジャクギ」。そして女の欲望という欲望を描く「宮廷の諍い女」。絢爛豪華な衣装が見どころの一つだが、やはりテレビのチープさが残り、本作には負ける。皇后と貴妃の髪型。先帝妃たちの真っ白なメイク。乳母の髪型。(そういえば、諍い女で皇后付きの女官の剪秋の髪型はこの乳母の髪型風)おすべらかし風の浩(嵯峨家出身の溥傑夫人)の髪型。

香港の観客はノリがいい。客席はほぼ満席。笑うべきところで笑ういい観客だ。レスリーの「白髪魔女伝」と異なり、オープニングでは拍手はないがエンディングでは拍手喝采であった。

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