ヴィック演じるロックシンガーと日本から来た女子留学生との“期間限定”の恋を描く。
愛你一萬年 2010年
感想
監督は、北村豊晴。
滋賀県の女の子、みかんがようやく就職した会社は台湾に三ヶ月語学留学した後、上海で働くことを条件だった。みかんは台中に語学留学した。そこで出会った奇峰と三ヶ月だけ、という契約で同棲まで始める。三ヶ月後、みかんは上海へ向かうが奇峰が恋しい。奇峰もみかんが恋しい。
という話。
海角七号の二番煎じ?
「海角七号」の二匹目のどじょうを狙ったようだ。成功したかと言われると、劣化コピーだろう。あ、テンポだけは海角七号よりも良い。海角七号が全般的に「下手」だったのに対して、本作は微妙な演出は結構ある(「日台交流」の表現は下品だが、ヴィックのキュートさで救われた)。それでも、ワンシーンワンシーンは笑えるし、デートシーンやいちゃいちゃシーンもそれ単体ならばヴィックのおかげか甘く可愛らしいシーンが多い。ただ、ブツ切れなのだ。
海角七号は料理の腕はあまりうまくはないが、題材の良さと「日本への愛」で押し切った感があるのに対して、本作はメッセージ性を排除してよく似た題材で料理してみました、という感じだ。一つ一つはさほど悪くはないけれど、盛りつけが下手、とか、メニューの組み合わせがおかしいので全体的に見ると変な彩り、とかそんな感じだ。
ブツ切れ
題材そのものはさほどひどくはない。「ブツ切れ」というのは、「なぜ」好きになっちゃったのかがいまいち不明だ。ばちっときちゃって勢いで寝ちゃって、そこから、というならまだあるのだが、自転車に乗ってから話が飛んでしまうのがいけない。フランス映画がぶつっと切ってしまうのとは別なのだ。フランス映画ではぶつっと切れても前のシーンと次のシーンで何があったかわかるのに。こけてそのままデートなの?何があったの?まさかそこでやっちゃった??
奇峰の方は「Cカップ?」というシーンがあって「やりたい」なのはわかる。みかんの方は「恋がしたい」だが、女の「恋がしたい」と男の「やりたい」というのは大して変わらないのでまあ良い。けれど、二人が三ヶ月経っても別れないのはなぜだろう?二人で紡いだ時間があり、思い出があるから?だったら、どうして奇峰は他の女とは三ヶ月で駄目になってしまうのだろう。奇峰にとって、みかんは他の女とはどう違うのだろう。みかんにとっても、たった三ヶ月一緒だった奇峰と、三年(だっけ?)つきあった民雄とどう違うのだろう?二人とも「誰とでも」縁があればなんとかなってしまうような人たちではない。二人とも、この人でなければ、というところがないと別の人のところに行ってしまう人たちではないか。そこが最大の問題だった。
人物造形も海角七号の劣化コピー
みかんと「海角七号」の友子を比べると、みかんは軽い。友子のヒステリーは約束されたのに上手く行かない台湾生活などちょっと重い。けれど、みかんはただ怒りっぽいだけだ。でも二人ともすぐに寝ちゃう上に酒癖が悪い。おまけに男に殴る蹴るの暴行を加えようとする。みかんはミュージシャンの大切な楽器まで破壊した。台湾での日本女子のイメージってこんなもんなのだろうか。ただ、海外で就職しちゃうような女の子は半端じゃなくタフだ。いやまあ、台湾ドラマの女の子たちも結構男に殴る蹴るの暴行を働くか。「ブラック&ホワイト」のリンとか。
アガと奇峰は同じく売れないミュージシャンだが、融通の利かないアガは不満だらけだが、ふらっとした奇峰には不満はろくにない。向上心がないからローカルでしか売れないのだろう。売れなくても三ヶ月ごとに別の女に寄生すれば生きていけるし。孤独な雰囲気のアガと違い、奇峰は飄々としていてバンドの仲間もいる。
良かった点
良かった点はまず日本語だ。日本人監督だけあって、加藤侑紀をはじめ、日本人キャストの日本語のセリフ回しは「海角七号」の田中千絵と比べると抜群に良い。そのせいで加藤侑紀も演技ができるように見える。この加藤侑紀は10年くらい前の吹石一恵のような雰囲気だ。モデルさんらしいが、10年後もいるかどうかわからない。けれど、モデル出身だけあって高身長で、でかくて細いヴィックと並ぶと絵になる。キスシーンが多いのだけど高身長男子と高身長女子なのですごく自然だ。ただ、採用面接で前髪を二本触覚のように垂らしているのはありえない。就職できなかったのもわかる。上海でやっぱり前髪を一筋垂らしているのもありえない。
F4はヴィック以外全員何か作品を見ているのだが、ヴィックだけ見たことがなかった。なのに、「ブラック&ホワイト」で落ちてしまい、「チャラ男」つながりで面白いかなと注文したのが本作だった。今回は「チャラ男」というよりも「だらしない男」。在天と奇峰が演じ分けられていて良かった。この人は本当に上手い。キスシーンなんて優しい優しいキスで、「奇峰」の優男ぶりがよく出ていた。王子さま役をさせておくのはもったいない。本人も王子さまからは卒業したいらしいので、今後に期待。
笑ったシーンは自転車に二人乗りするのに自転車に乗れない奇峰は自転車の前に横座りしてるところ。そして、ヴィックが大きな目をぱちぱちさせるシーンだった。とてもキュート。でもこれ、みかんが「やめてぇ」というシーンで奇峰が想像しているのだけど、何って日本のAV。下品で馬鹿な男はどこにでもいるもんだ。
その他
「愛你一萬年」という曲がキーになるのだが、原曲は沢田研二が歌った「時の過ぎ行くままに」。高校時代に沢田研二のコンサートが地元であった。チケットがそれほど売れなかったらしくテレビCMでがんがん流れていた。そのときの曲がこれで、サビだけ流れるのだが我ら女子高生四人組に馬鹿受けしてしまった。もちろん、理由はろくにない。そのせいでこの曲がかかると爆笑したくなる。今思えば、かなり殺伐とした歌詞が女子高生にはリアリティが全くなかったのだろう。その殺伐とした歌詞が本作では愛の歌になり、「一万年愛してる」になる。ヴィックと沢田研二を比較すると沢田研二の方が歌唱力は上だろう。けれど、マイケル・リンのポップな編曲は上手いし、ヴィックのハリとツヤのある声にゾクゾクきてしまった。本作の中では(少なくとも、ラストの歌は微かに加藤侑紀の声というか息が入っているので実際に歌っているのではないか)結構低音だと思ったが、サントラで聞くとなかなか高音だ。
iTunesにサントラがあったので、早速DLしてヘビロテ中だ。