天正10年(1582年)本能寺の変。一代の英雄織田信長が死んだ――。跡を継ぐのは誰か?後見に名乗りを上げたのは2人。筆頭家老・柴田勝家(役所広司)と後の豊臣秀吉(大泉洋)。勝家は、信長の三男でしっかり者の信孝(坂東巳之助)を、秀吉は、次男でおおうつけ者と噂される信雄(妻夫木聡)を、それぞれ信長の後継者として推す。そして、開かれる清須会議――。会議に出席したのは4人。勝家、秀吉に加え、勝家の盟友であり参謀的存在の丹波長秀(小日向文世)、立場を曖昧にして、強い方に付こうとする池田恒興(佐藤浩市)。繰り広げられる一進一退の頭脳戦。様々な駆け引きの中で騙し騙され取り巻く全ての人々の思惑が猛烈に絡み合う!勝家派か?秀吉派か!
2013年
感想
監督は三谷幸喜。
カリスマ、信長の死後必要な人物は誰なのか。それは畏怖される存在ではなくても、まず視座が高いこと、そして、野心が大きいこと。
戦場でしか生きられない勝家は、お市に夢中。そもそも天下のことなど眼中にない。
長政は本能寺のときに一番近くにいたのに明智を攻めることができなかった負い目がある。
池田はその場しのぎだけだ。滝川にはチャンスはない。
視座が高かったのは秀吉。そして、信長の弟三十郎だ。しかし、三十郎は生臭いことは嫌いだ。秀吉には野望がある。
秀吉は信孝が言うように「我らが束になっても敵わぬ」。それは視座が高かったからだ。織田家のことは手段にすぎない。織田家をのっとるつもりすらないだろう。だからこそ、「天下人の跡目を決めるのではない。織田家の跡目を決める」と言える。野望が大きいからこそ、顔に泥をつけることだって構いはしない。プライドなどないのだ。
スクラップ&ビルド
最近見る日本映画にはカタルシスを強く感じる。震災の影響ではないかと思うのだが。
三十郎は「織田家を壊してしまえ。わしも兄上と一緒に死んだのだ」と秀吉に言う。そこに端的にあらわれるように、本作も秀吉による織田家の破壊と言っても良い。しかし、「風立ちぬ」にも、「劇場版SPEC ~結(クローズ)~ 爻(コウ)ノ篇」にも感じなかった晴れ晴れしさを感じる。秀吉がいうように「わしを斬ればまた100年戦乱の世が続く」のを知識として知っているからだ。「知っている」我々は「秀吉」の友として、本作のかくれた狂言回しの前田利家に観客は同化する。秀吉の策の見事さと醜猥さ、そして清々しさ。そして視座の高さを前に刀を収めねばならない。そして我々はその後を知っている。秀吉によってもたらされる平和を(秀吉が固めて、おいしいところは全て家康がかっさらっていくが)。「豊臣秀吉」という一代で関白まで上り詰めた男によるその後のビルドを知っているからこそ、安心して秀吉にスクラップさせることができる。
キャスト
大泉洋。大泉洋。見事お見事。乗ってる俳優を上昇中の男にあてるととてもいいのか。秀吉の清々しさと醜猥さとをバランスよく演じたと思う。見事だったのは役所広司と二人で並ぶシーンだ。べらべらと勝家は喋り、笑う。それに大して秀吉の目は冷たい。器がまるで違ったのだなあ。この人の演じる秀吉をもう少し見たい。
鈴木京香の眉なしお歯黒は恐ろしい。それでも鈴木京香と役所広司の二人で、お市の視座の低さ、お市によって勝家は秀吉との戦に引きずり込まれるのか。戦場がなくなり、生きる場所がなくなった男は好きな女一人のために勝ち目のない戦に行くのだろう。それはそれで勝家にとってはしあわせだったのかもしれないと思った。けれど、巻き込まれる側はたまったものではないなあ。
役所広司も見事に間の抜けた男を演じていた。空気が読めないのだね。
目がずーっと泳いでいる佐藤浩市も良かった。「生き抜いてみせるよ」というけれど、こういう人は確かにしぶとい。
三谷幸喜のミューズは小日向文世かもしれない。今回は論に弱い(論を重んじるからこそ、論破されると終わる)男を好演。勝家は友情が終わったと思っただろうが、長秀からすると友情は友情、そして織田家は織田家なのだろう。
眉毛を太くして着物の裾をたくし上げて踊る寧役の中谷美紀だが、あれはあの時代ストリップに近いのかもしれない。同じような時代の「利休にたずねよ」の予約編にも中谷美紀がいたが、本作の方が生き生きとしている。だが、なんとなくうちの従姉に似ていたので親近感がわいた。
松山ケンイチの人の良さそうなきゅうきゅう。つけ鼻をしていた妻夫木聡(うつけの次男)の楽しそうなこと。
惜しむらくはただ一人、剛力彩芽。棒読みすぎて「父上の孫が」のシーンが生きない。若手の女優で清純(というか清楚)に見えるのに実は、というのを演じることができる人はいなかったのだろうか。うまくやればあれで一気に名が上がるのになあ。若い頃の中谷美紀だったら良かったのに。
三谷幸喜の編集は甘め。そしてほどほどのところに落ち着かせようとする癖があるのが問題だった。しかし、本作はほとんど会話劇なのに、テンポが良い。これは大泉洋によるものだろう。そして毒々しい。秀吉によって登場人物は足を救われ、そしてエンドロール直前の合戦の音が示すように、人の良い勝家は死んでいく。その中で勝者秀吉の側の清々しさ。上手かった。それは、「大泉洋」という俳優を得てのことだったのかもしれない。
もちろん、小さなネタはちりばめられ、一番は「ステキな金縛り」の更科六兵衛さんが「生きててこそ」とつぶやくところだろうか。