アパルトヘイトによる27年間もの投獄の後、黒人初の南アフリカ共和国大統領となったネルソン・マンデラは、依然として人種差別や経済格差が残っていることを痛感する。誰もが親しめるスポーツを通して、人々を団結させられると信じたマンデラは、南アフリカのラグビーチームの立て直し図る。マンデラの”不屈の精神”はチームを鼓舞し、団結させ、奇跡の快進撃を呼び起こす。それは、暴力と混沌の時代に初めて黒人と白人が一体となった瞬間だった。
Invictus 2009年
感想
監督はクリント・イーストウッド。
普段のマット・デイモンのボストン訛りの英語は、ものすごく早くて抑揚がないのだけど(アメリカのインテリに多い喋り方)、聞きにくくはない。それが、今回は中盤まで何を言っているのかちっともわからなかった。終盤になってようやく耳が慣れて少しわかった、程度だった。南アフリカ訛りにアフリカーナ語が混じっていたみたいだ。モーガン・フリーマンもマンデラに見えるし。再現、という点では良かったと思う。
テンポが緩いのだが、クリント・イーストウッドなので仕方がない。
ストーリーは原作が良かったのか、見事なバランスだった。
オープニングの分断されたグラウンドで、白人少年たちがラグビーに興じ、黒人少年たちは素足でボールを蹴る。蹴れば良いサッカーをしているのだ。釈放されたマンデラの車列が近づくと黒人少年たちは「マンデラ、マンデラ」と叫ぶのに対して、白人少年は「マンデラって誰?」なのだ。コーチ曰く、「テロリストだ」。これで、南アフリカの現状(アパルトヘイト)、新生南アフリカへの黒人たちの期待、そして白人たちの恐怖が見事に表現されていた。
ボディガードたちでも黒人の恐れ、恨み、そして白人の違和感と恐れをうまく表現している。黒人のボディガードたちは、マンデラが倒されることを過剰なまでに恐れているし、白人のボディガードたちも、黒人上司のもとしぶしぶ任務につく。けれど、マット・デイモンの演じるフランソワ・ピナールが大統領府に行く頃には、「前の大統領のときに私は空気だったが、今の大統領は私の好みを知ってイギリスから飴をお土産にしてくれる」と次第に融和していく。さらに、終盤では黒人ボディガードと白人ボディガードが仲良くラグビーをして遊んでいた。ボディガードだけで融和が進む様子を描くことができるのかと驚いた。
問題は、ピナール側がラグビーと一家以外にろくに描いていない点だったが、時間の制約があるので仕方がない。
人のラグビー選手たちは、黒人居住地区へ行って「こんなところがあるだなんて」と驚愕する。大多数の白人たちはそうだっただろうし、今もさほど変わらないだろう。
それでも、マンデラは偉大だった。統治機構から白人たちをたたき出すようなことはせず、黒人も白人も同等に扱おうとした。復讐するのではなく、許した。今日のアフリカの問題はの一つはそこにあるのではないだろうか。利権の上にあぐらをかく白人たち、そして、その白人を蹴落とそうとする黒人たち。それでは、何も解決しないのだ。
南アフリカの赤い大地。
相変わらず貧富の差が激しく、こういう都市は自分の足で歩き回りたいタイプの私には向かない地域だろう。