映画監督のオリバー・ストーンはニューヨークに生まれ、育ち、歴史を学び、ベトナム戦争にも従軍した。そのストーン監督が語りなおす、「語られなかったアメリカ史 (The untold history of the United States)」。
ヒットするかは別として、著名人が陰謀論に走るわけでもなく、論拠を示しながら語っていけるのがアメリカのすごいところ。
一回目は第二次世界大戦
「日本に投下した原爆について。アメリカで語られるように、ナチズム、ファシズム、軍国主義に戦った正義の戦いだったのか。」
- スペイン内戦に、フランコ側にGMやフォードが支援をしたこと。
- 保守的で反ユダヤ的だったフランスの指導者たちが、むしろ親ナチスだったこと。
- イギリスとフランスがドイツに勝って欲しいとおもっても、国民はアメリカの参戦には反対だったこと。
ルーズベルトの公約は海外に派兵しないことだった。ルーズベルトは中立法をくぐり抜けた。ルーズベルトのニューディール政策で尽力した農務長官だったウォレスのこと。
日本とドイツが結局最後まで連携しなかったこと。アジアでは日本軍が当初植民地支配解放として歓迎されたこと。けれど、アメリカの技術力は圧倒的だったこと。その中での核兵器。本当に必要だったのか。
ドイツを敗北させた真の英雄は、アメリカではなくソ連兵士の血。
二回目はルーズベルト、トルーマン、ウォレス
ルーズベルトの「無条件降伏」を求める態度がその後の凄惨な爆撃、原爆に至ったこと。平和を求めたルーズベルトなのに。
テヘラン会談における、ルーズベルト、チャーチル、スターリンの合意。
ポーランドの悲劇。ポーランドのカトリック教徒が反ユダヤ主義だったこと。ソ連にとってポーランド(二度もドイツはポーランド経由で責めてきた)が死活問題だったこと。
四期目を目指したルーズベルトが副大統領に指名しようとしたウォレス。「庶民の革命と植民地主義の終焉」
国民に人気があったが、民主党が嫌ったウォレス。
イギリスの英雄、チャーチルの人種差別的政策。アングロサクソンの優位性の主張。ウォレスはそれを嫌った。
労働者に愛されたウォレス。戦時中、労働者がストライキを起こす。戦時特需が還元されなかったから。キング牧師の演説にも引用された。
ウォレスは結局、四期目の副大統領候補にはなれなかった。敵の少なかったトルーマンが選ばれた。力ずくで民主党大会の副大統領候補指名を延期し、一晩で大使などのポストでウォレス派は切り崩された。さらに、ウォレス派の投票が妨害された。「スミス都へ行く」は夢物語。
見解不足のトルーマン。弱虫と呼ばれた少年時代のコンプレックス。スターリンに「裏切り」と捉えられ、冷戦をもたらした。
三回目は原爆。というよりも、日本。
アメリカで日本人がゴキブリ扱いされたこと。人種差別的な理由、そして真珠湾奇襲攻撃。降伏せずに戦い抜く日本人。
そしてアメリカ市民を含んだ日本人・日系人を強制収容所に入れたこと。そこの生活の貧しさ。
第二次世界大戦で、アメリカ軍の爆撃方法が変わったこと。ドイツでは地上からの攻撃にパイロットがおびえた。だから、イギリス軍とアメリカ軍は夜間に市民に対する絨毯爆撃を行った。軍事的に意味のないターゲットだったドレスデンのように。アメリカ軍はイギリス軍がドイツに行った絨毯爆撃以上に無慈悲な爆撃を日本に対して行った。焼夷弾の使用。金属まで溶かすような大火災。非戦闘員に対する最も野蛮な行為。アメリカの残虐行為。指揮を執ったのはルメイ。
原子爆弾を使用したこと。
日本が既に敗北していたことは明らか。本当の的はソ連だった。
日本の外交文書は傍受され、7/18にはすでに「天皇からの和平の求め」、無条件降伏だけが問題になっていたことが明らかだった。天皇の処刑だけが問題だった。けれど、バーンズはトルーマンに天皇を処刑しなければ、トルーマンの地位が脅かされると告げた。原爆実験の次の日にポツダム会談が始まった。スターリンも原爆実験成功を知っていた。ポツダム宣言にソ連の署名がなかったために、日本は無意味な外交努力をしなければならなかった。
陸軍長官は原爆投下は悪魔的だと反対した。アイゼンハワーやマッカーサーなど元帥たちも後に原爆の使用には反対だったことを告白する。東京を焼け野原にしたルメイすら、原爆が終戦とまるで関係ないことを言っている。
広島の犠牲者は市民30万人をこえた。アメリカ人捕虜23人も犠牲になった。長崎も24万人を超えた。どちらも無条件降伏を早めることはなかった。日本の都市はすでに廃墟となり、日本政府にとっては、また二つ都市が消えただけにすぎなかった。日本の降伏は、ソ連の参戦が理由だった。
ソ連は自らの皇帝を殺害している。天皇を殺すことにためらいはなかっただろう。天皇はついにポツダム宣言を受け入れることを決意した。
トルーマンの主張する「原爆を使わなかったときに失ったであろう死者」の数は年々増加した。ブッシュ(シニア)に言わせれば、数百万人が死なずにすんだ、と主張するまでに至った。
戦後、核はどうするのか。
自殺的な軍拡競争に足を踏み入れてしまった。広島と長崎の惨状を見たソ連が態度を軟化させるだろうと考えていたが、実際はその反対だった。
皮肉にも日本の天皇は存続し、トルーマンも政治的地位が脅かされることはなかった。
平和主義のウォレスは辞任し、ついには政治家を引退した。共産主義的と攻撃されたためにソ連を攻撃した。けれど、ウォレスの理念は今も残る。ウォレス。ウォレス。ウォレス。最もアメリカ人らしい男。第二次大戦中に寛容を見せた真の英雄。忘れられた英雄。トルーマンでなく、ウォレスが副大統領になっていたら?失敗することではなく、人間であることが悲劇なのだ。
(あれ?私は三回しか見ていないようだが、十回ある??)
オリバー・ストーンが語る もうひとつのアメリカ史 1: 2つの世界大戦と原爆投下 (ハヤカワ・ノンフィクショ…
オリバー・ストーンが語る もうひとつのアメリカ史 3: 帝国の緩やかな黄昏 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)