16世紀フランドルの夜が明け、農村の一日が始まる。若夫婦は仔牛を売りに出かけ、岩山の風車守りの家族は風車を回し小麦を挽く。のどかな村の様子とはうらはらに、支配者は異端者を無惨に迫害していた。アートコレクターのヨンゲリンクは画家ブリューゲルにこのあり様を表現できるかと問いかける。それに応えブリューゲルが風車の回転をとめると、すべての光景がぴたりと動きを止めた。すると、フランドルの風景の中にキリストや聖母マリアらが過去から舞い戻り、聖書の「十字架を担うキリスト」の物語が始まった。
The Mill and the Cross 2011年
感想
監督はレフ・マイエフスキ。
時代背景なしにわかる人は少ないかもしれない。ヒントは「スペイン王に仕える者」たちが処刑執行を行っていること。そして、画家はそれを古いキリストの受難になぞらえて描いていること。宗教改革だ。ヨーロッパはカトリックとプロテスタントに分断された。カトリックの守護者を自認するスペイン王(ハプスブルグ家)はフランドル地方も支配していた。ここはプロテスタントの多い地方だ。カトリックによるプロテスタント弾圧が背景にある。
すなわち、ブリューゲルはこの作品をキリストの受難になぞらえて、フランドル地方で起きた宗教弾圧を糾弾しているのだ。
本作はそれを、ストーリーにするのではなく、日常を切り取るように、いわば、ブリューゲルが農民の生活を切り取るように描いてみせたように、描く。圧倒的な絵の美しさと、残忍さ、そして編集の上手さ。どこをとっても見事だった。
ただ、聖母マリアがシャーロット・ランプリングというのは如何なものか。フランソワ・オゾン作品の常連だが、今回は偏狭っぽく見えてならない。