源氏と平家の決戦、壇ノ浦の戦いから数百年後。とある山間の寒村に言い伝えられる“お宝”を探し求め、義経率いる源氏軍(白)と清盛が指揮する平家軍(赤)が対立し村人を巻き込んでの抗争
2007年
感想
監督は三池崇史。
源氏と平家は相変わらず争っている。ある平家の寒村で平家が宝物探しを始めた。そこへ源氏がやってきて小競り合いはするが高みの見物だ。清盛は、赤組が負ける平家物語を捨て、赤組の勝つヘンリー六世を読み、ヘンリーと名乗り始めた。平家の息子のアキラは源氏の女の静との間に息子平八を儲けたが、平家を村から出ていかせようとしたアキラは清盛に惨殺され、レイプされかけた静は源氏の義経の元に逃げた。そこへ、よそ者のガンマンがやってきた。
として、本当にストーリーはめちゃくちゃ。
映画のみならず、創作する人は必見である。
反面教師として。
邦画にはどうしても厳しくなってしまう。それは、普通の映画であれば、その文化的な背後関係は日本人である私にとって既知のものであり、演技力で必要な「台詞回し」のナチュラルさか不自然さかも日本語を母語とするわかるからだ。本作は英語を使用言語とする。吹き替えではなく、役者自身が英語でしゃべっているからだ。けれど、英語ならばナチュラルかそうでないかはわかる。全編英語と言いながら、固有名詞や感嘆詞まで日本語にしてしまうこの中途半端さ。加えてわざと芝居がかったセリフ回しをしているのだろうが、ジャパニーズ・イングリッシュだもの。伊藤英明と伊勢谷友介と木村佳乃は比較的良かったけれど、佐藤浩市はひどすぎた。この台詞回しだけで役者の力を半分以上削いでしまった。
オープニングの香取慎吾とクエンティン・タランティーノののシーンの絵の作り方は「怪盗ブラックタイガー」並みだ。紙の太陽、浮世絵の富士山。たまに後から色を加えたと思われる絵。「ブラックタイガー」のパクリかよ?と思えるけれど、チープになってしまった「ブラックタイガー」よりも洗練されている。衣装も蛮カラだし。これで面白くない訳がないだろうと期待してしまったのが間違いだった。
本編にはいると、それが、黒澤明の作品彷彿とさせるセット(組んだのだろうか。ロケしただけなのだろうか)でやる。黒澤明に「ブラックタイガー」?これは面白くなりそうなのに。面白くならない。黒澤明を彷彿とさせるようなスローさだが、しまっていないので単にテンポが悪いだけだ。「ブラックタイガー」の学芸会的な「わざと狙いました」以下。
エンターテイメントを考えたのではなく、どうやったら「演技ができる」役者に「仕事をさせない」か。どうやったら、誰が料理しようが美味しくなる「スキヤキ」をまずくするのか。それだけを考えたのではないかと思う。
木村佳乃は「妖艶」な役なのだろうに演じられない。これは明らかなミスキャストだ。佐藤浩市の清盛による鬼畜シーンは凄惨だが、ぎゃーぎゃーわめくだけで、リアルだったら脱げてるよ、というところでもしっかりと見せない。義経やガンマンを誘惑するのに脱がない。香港の女優ですか、あなたは?脱げ、とは言わないが、ちっとも色気がないのだ。着衣のまま色気を出せばいいし、出せないなら脱がせれば良い。義経の前での呪術的なダンスシーンも「神憑る」ようには見えない。「純朴な静がアキラの死により復讐に燃える妖婦となった」がきちんとできたら、あんた、この映画は楽に食えたよ。映画も救われたのに。
スティーブ・マックイーンかクリント・イーストウッドをやりたいらしい伊藤英明だが、オーラがない。それも、圧倒的に。「ブラック&ホワイト」のボス役をやったジミー・ハンもオーラがない人だがそれ以下。
香川照之は無駄な一人芝居だし、「ロード・オブ・ザ・リング」のパクリはいけないよ。
柱になるべき清盛役の佐藤浩市は芝居が臭い。
キャストでましだったのは、重盛役の堺雅人が可愛かったこと。そして桃井かおりは美味しいところを持っていくね。伊藤英明よりはるかにオーラがあった。義経の伊勢谷友介は割にいけた。剣さばきはきれい。
保安官役の香川照之以外に笑ってよ、というシーンがいくつかあった。
石橋貴明の女装は撃ち殺すよね。ただ、無駄なシーン。
清盛は赤組が負ける「平家物語」を捨てて、赤組が勝つ「ヘンリー六世」を読んでいるところも「笑ってよね」もしくは「これが笑えるお前と俺はインテリだよね」というところだろう。笑えるものか。清盛は「ヘンリー」とまで名乗る。シェイクスピア劇を演じるような台詞回し、というところなのだろうか。この笑いが日本で通じるだろうか。全編英語で通して「世界で」というのだろうが、三池監督が対象にしている「世界」というのは何を指しているのだろう。アメリカ?日本同様、アジアでも「ヘンリー六世」も「シェイクスピア」もわかった上で、さらに「平家物語」まで知っていればなお笑える、というこのシーンを理解できて大笑いできる層は少ないと思うのだが。しかも、薔薇戦争で勝ったのは(赤組のランカスター側ではあるが)ヨーク家でもランカスター家直系でもない、テューダー家のヘンリー・テューダー。彼が「ヘンリー七世」となるのだ。ヘンリー六世自身は殺される。興味を持てばここまですぐに調べられる。
「エンターテイメント」をやるからには自身の知性より下げなければならないが、中途半端な知性は身を滅ぼす。
「ブラックタイガー」の方がましだ。
笑いもすべりすぎ、やってはいけない、をやってしまった映画だ。
・英語ができない人に英語をしゃべらせるなら、発音、発声指導をすること。それも徹底的に。
・純朴さと妖艶さの双方を演じ分けられない女優を使うな。
・オーラのない俳優を主演に持ってくるな。
・柱となって支えられるような俳優に誰も絡まないような一人芝居をさせるな。
・柱になるべき役に臭い芝居をする俳優を持ってくるな
・無駄な笑いは入れるな。
・監督の中途半端な知性は作品を破壊する
中盤、タランティーノは桃井かおりにいうではないか「スキヤキはお菓子ではない」と。そのままお返ししたい。スキヤキはなんでもぶち込めばいいというわけではない。
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