人気サッカー選手、D・ベッカムに憧れる少女が偏見や差別にも負けず、プロサッカー選手への道を目指す青春ドラマ。インド系英国人・ジェスはベッカムに憧れ、自らもサッカーに夢中。ある日、運良く地元サッカーチームのメンバーへの誘いが舞い込む。
Bend It Like Beckham 2002年
感想
監督はグリンダ・チャーダ。
おすすめはするが、ストーリーとしては使い古されたものでしかない。
ジェスもジュールズも最大の壁が母親というのがリアルだった。ラスト、姉の結婚式とサッカーの試合を重ねて表現するのが(ありがちな表現手法ではあるが)面白かった。特に音楽面で。日本語タイトルはひどい。原題の意味は「ベッカムのように蹴りたい」かな。決してベッカムに恋しているわけではない。「ベッカムになりたい」くらいで良かったのではないかと思う。
パーミンダ・ナーグラ、と聞いてピンと来る方は私の仲間だ。この方はこの「ベッカムに恋して」で名前を売った方だが、より有名なのはアメリカドラマのERの終盤の主役、アビーの同級生のイギリスからのインド系留学生のニーラ役だ。私はニーラは苦手なキャラクターだった。どうも、いつも眉根を寄せて、「(降り掛かって来る不幸は)わたしのせいじゃないの」と言いたげなところが嫌いだった。それは、この女優さんの演技ではなく、この女優さんの顔がそんな顔をしている、ということらしい。実際にこの方がどんな方かはわからないが、もっと別のキャラクターで見てみたい。つまり、ニーラとジェスはほとんど変わらないのだ。欲しいもの、なりたいものの障害は「自分の外」にある、というと認識しているところだ。
一つ思い切りの良さが見えたのは、試合中に相手選手に「パキ(パキスタン人の蔑称)」と蔑まれたときに飛びかかっていったシーンだった。あれは良かった。このシーンについては下で書こう。
キーラ・ナイトレイというと、パイレーツ・オブ・カリビアンシリーズだろう。テレビ放映時にちらちら見る程度だが、いわゆる「勝ち気なお姫様」が似合っていた。ここでは惜しげもなく(?)腹筋を見せている。ほんっとに運動神経が良いのだろう。うらやましい。ボーイッシュな役を好演していた。
ジョナサン・リース=マイヤーズは、アイルランド人の監督、ジョー役だった。特筆すべきことはほとんどないのだが、見せ場そのものがないのだから仕方がない。
一番印象に残ったのシーンは、「パキ」だ。ジェスがジョーに「パキスタン人扱いされたのよ!あなたにこれがわかる?」と言っていたが、ジョーに仔細が理解できなたかは不明だ。ただ、ジョーはこう返すのだ。「僕はアイルランド人だよ」。イギリスにいれば、なぜインド人のジェスがパキスタン人扱いされて怒るのか正確な理由はわからなくても、その感情は理解できるだろう。それは宗教が背景にある。
しょっちゅう映画の中ででも「イスラム教徒なんて!」という台詞が何度か出てくる。「イギリス男はなし。(インド人でも)イスラム教徒なんてあり得ない。黒人なんてもってのほか」というシーンのように。パキスタンはイスラム国だ。だから、一緒にされたシク教徒のジェスは烈火の如く怒るのだ。
アイルランドも同じだ。イギリスがイギリス国教会であるのに対して、アイルランドはカトリックなのだ。一緒にされると怒るだろう。
ここからジョーとジェスは急速に仲を深めていくのだが、それは差別対象の者同士だということもあるのだろう。
ただ、この問題、つまり、シク教徒がイスラム教徒をいやがること、は結構複雑だ。インド人であるシク教徒たちはイギリスにとけ込めているわけではないし、尊重されているわけでもない。ジェスの父のように、有能なクリケットの選手なのにインド人だというだけで「犬のように追い払われる」のだ。シク教徒はイギリスの中で差別対象であって、その差別対象はもっと激しい差別を別のグループ、すなわちパキスタン人であったりイスラム教徒にしているのだ。