僕は君のために蝶になる

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女子大生のエンジャ(リー・ビンビン)が密かに憧れていた美男子アトン(ヴィック・チョウ)と結ばれる。しかしある日、アトンは事故で急死してしまう。その3年後、法律事務所で働くエンジャの夢の中に、アトンが毎晩姿を現すようになる。はじめは戸惑うエンジャだったが、毎夜の逢瀬を続けるうち、次第に彼を心待ちにするようになっていく。そして、今まで知らなかったアトンの過去、秘められた想いが次第に明らかになり…

原題:蝴蝶飛 2008年

感想

タイトルが悪い

レンタルショップのHPに出ていた評価があまり良くない上に、鬼門、ジョニー・トーなので正直なところ見るのに少し勇気がいった。が。私の個人的な評価は結構高い。それはなぜだろう。「アイドル」ヴィック・チョウの「ラブ・ストーリー」で売ろうとしてしまったからではないだろうか。タイトルもひどい。「僕は君のために蝶になる」では、「君のために」のせいで「ゴースト」のように死んだ男が彼女を守ろうとしているように聞こえてしまうではないか。

ただ、このタイトルはとても難しい。中国語の原題をそのまま訳すと「蝶が飛ぶ」。中華世界ではどうも「蝶」が飛ぶことは、死者の魂が成仏する様を示すようだ。その観念を現在の日本の我々は共有していないからどうしてもこの日本語タイトルになってしまうのだろうか。けれど、英語タイトルのLingerは動詞だが、ぐだぐだとその場に留まることだったり、思い出や記憶がなかなか消えないことを示す言葉だ。本作に沿った日本語を探すと、アトン側の「成仏できない」、とかエンジャ側の「忘れられない」に、「拭えぬ記憶」とか。

これでは「ジョニー・トー」ではなく、むしろ「イー・トンシン」レーベルになってしまう。タイトルは置いておこう。

北京語

まず驚いたのは、聞こえてくる北京語だ。主役のヴィックは台湾だし、香港の女優を持ってくる代わりに、大陸からリー・ビンビンを持ってきた。台湾なまり丸出しのヴィックに、大陸なまり押さえ気味のリー・ビンビンなのだが、二人とも「香港で親と住んでいる」設定だからかなり変な感じがした。とはいえ、エンジャの父役のラム・シューも自分の声のようで、吹き替えはシュー役の男の子一人だから、出演者が香港的に豪華なくせにジェリー・イェン以外が吹き替えだった「マジック・キッチン」(日本版DVD)よりははるかに自然だった。

ただ、思う。何年頃からだろうか。2008年公開作品頃からだろうか。香港映画は「香港」レーベルではなく、大陸市場に目を向け、大陸との合作がどんどん増えてくる。本作も北京語を喋り、中国語圏に絶大なブランド力を誇る「F4」の「ヴィック・チョウ」の映画デビュー作品だった。だから私も本作を手に取っただのだ。それでも私は「香港」が見たかった。

ヴィック・チョウ

ブラック&ホワイト」ではまって以来、「陳在天」以前のヴィックは初めてだ。
ヴィックの背中は汚い。湿疹の跡があるが、「ブラック&ホワイト」で見せた胸の方は綺麗だったからおそらく毛孔性苔癬だ。二の腕や背中にぶつぶつがあるやつ。これは体質的な問題だ。ラブシーンなんだし、アイドルなんだし、ファンデーションを塗ってあげようよ。と思った。髪型もすっごください、というかのびすぎてだらしなく見える。半袖から覗く二の腕に筋肉がまるでなくて、バスケの選手に見えない。

ヴィックの演技は良い。恨みのこもった目や問いつめる口調もあるが、この人の持ち味は「静」の演技だろう。隅っこで体を小さくしているシーンは孤独でおびえた様子だった。このシーンだけで愛されているのか自信がない人なのだ、というのが良くわかった。上手い。だからアトンは「好きなのか?」と問いつめずにはいられないし、父の愛も確信が持てないので成仏できないのがあれだけで十分わかる。「あのままつきあっていたとしても、今頃別れてただろうな」幽霊になってもそう言わざるを得ないのだ。ちょっと一言多い人だ。

ランニングシーンなどかなり軽い調子で演じていて、たまに(私が好きな)在天になる。でも、在天よりも若くて、しかも在天よりも健康そうだった。アトンは幽霊なんだが…本作は2008年公開だから、撮影はおそらくいくら古くても2007年。在天は2009年放映だから撮影はやっぱり撮影は2008年から2009年頃ではないかと思うのだが。それほど変わらないのに、なぜだ?アトンの変な髪型のだろうか。幽霊として出てくるヴィックはものすごく細いと思ったが、在天はここまでがりがりな印象はない。常に動いているからだろうか。その次の「一万年愛してる」ではひょろひょろだったけど。

何はともあれ、解剖のために切り開き、縫った跡を再現するなんてさっすがジョニー・トー。けれど、アトンは事故死したのだ。骨が折れてたりぐちゃぐちゃになってるよね??さすがのジョニー・トーでもそこまでグロは追い求めないのだろう。私も見たくない。

リー・ビンビン

リー・ビンビンはファン・ビンビンと名前を間違えるが、おそらく初見だ。美人女優ということだが、オーラがほとんどない。「ラブ・ストーリー」というよりは、本作はむしろホラー映画なので、その主役で、「精神安定剤を飲んでいた人」役にはぴったりといえばぴったりだ。他の作品を見たことがないので実はなんともいえない。何度か時間がさかのぼるのだが、三年前の学生時代ではロングの髪をポニーテールにして、現在ではショートにしている。学生時代シーンはそれほど顔がアップにならないが、たった三年であんなに老けるものだろうか?と思ってしまう。細いのだが、「細い」というよりはむしろ「やつれている」のに頬はたるんでるし。ポニーテールでアップにすればリフト効果があるのは確かだ。そして、歩く様子がおばさんっぽかった。「(精神的に)疲れきっている人」には合うのだが、学生時代から3年後、なら、香港でもおそらく20代半ばだろう。ミスキャスト、もしくはメイクのミスだと思った。

ただ、エンジャは現実とアトンの見せる映像の区別がつかないという演技、悪夢から覚める演技は見事。

エンジャはシューに惹かれていく。それは「アトンに似ている」からのようだが、あまり似ていない。いっそ、ヴィックに髪型を変えて演じさせても良かったと思うのだが。

その他

本作では確かに死んだ男が彼女の元に戻ってくる。けれど、「ゴースト」のように彼は彼女を守ってくれるわけではない。愛を語る前に恨みをぶつけてしまう。愛してるよ、とか、チケットを渡したかった、と言う代わりに「君は僕が好きなのか?」と問いつめてしまう。「(僕は君を愛しているのに)君にとっては、僕はミスキャンパスの元彼氏でしかないんだろう?」という不安。始まったばかりの二人の楽しさは紡いでいく幸せだけではなく、誰かへのあてつけでしかないのではないか?愛しているのは自分だけではないか?という不安と裏表だ。特にアトンは愛されているか自信のない人だから、問いつめざるを得ない。

「僕は建築士になりたかったんだ。でも、死んでしまった。君のせいで僕は死んだんだ」そう責める男に、「死んだのはあなたのせいよ!」と責任を転嫁させるのは中華女子も韓国女子も得意だ。お互いに責めて責め上げてもどうしようもないと思うのだが。互いに「先にチケットを渡していれば結果は違った」「そもそもミス・キャンパスからアトンを奪わなければ良かった」と悔やんでいるのに。

「一万年愛してる」では「なぜこの二人はお互いが好きなのかがわからない」と思った。本作でも二人の愛のシーンはほとんどない。それでも、アトンは好きだというのが全面に出ているくせに無愛想で、電話をかけてくれば「マフィアが金の取り立てにきた」と言われるようなエンジャが気になってしょうがないこと、どうしようもなく互いに惹かれていくのは良くわかった。これが演出の腕の違いなのだろう。

ジョニー・トー作品はテンポが悪いお耽美血みどろ映画、というイメージを持っているのだが、本作は静かな映画だがそれほど退屈ではなかった。

ホラーなのに、ちょっと笑えるシーンまであった。

まずは幽霊の警官で、身分証明書のようなものをアトンと見せあって「ほら、俺は2001年に死んでるんだ」と言うのだ。だが、その次の瞬間、笑う二人の様子が怖かった。
見ていてランニングシーンが面白かった。正面から撮影すると走っていなさそうなのがよくわかった。ヴィックはぴょんぴょんジャンプしているんだもん。
「(父さんは)僕に気づくかな」「そんな不運は私だけ」の台詞も良かった。

つっこみたくなるのは、
「冷たい土の中に横たわり」って、あの墓所は遺灰を置いた集合墓所ぽいのだが。
裁判シーンがあったが、香港の裁判所で使われる言語は英語だ。香港はイギリス式にカツラをかぶる。女の裁判官でも。それは実際に見たので知っている。

ラストシーンでエンジャが丘に登り、海を行くヨットを見つめるシーンは忘れがたい。「明日になれば君も楽になる」とアトンが言ったように、エンジャの顔は晴れやかだ。私にとって本作は「僕が船で酔ったとき、父は怒らずに介抱してくれた。その記憶がなければ、悪い父親だと思えるのに」とアトンは言うが、「本作がなければ、ジョニー・トーはひどい監督だと思えるのに」という気分だ。ただ、何度も何度も見たい映画ではない。

香港らしいなあ、と思うシーンはあまりなくて、ミニバスくらいだろうか。

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